【2700】 ◎ リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット (池村千秋:訳) 『LIFE SHIFT (ライフ・シフト) (2016/10 東洋経済新報社) ★★★★☆

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働く人々の人生観や仕事観が今後多様化していくであろうことを新たな視点で説明。

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LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』['16年]リンダ・グラットン 2016年10月来日『LIFE SHIFT』発売記念講演「100年時代の人生戦略」
ライフ・シフト0.JPGThe 100-Year Life.jpg イギリスの心理学者リンダ・グラットン(前著『ワーク・シフト』はベストセラー)と経済学者アンドリュー・スコットによる共著で、先進国の寿命が伸び、人生100年時代が現実となってきた今、人々はどう人生設計すべきかを考察した本です(本書もベストセラーとなり「ライフシフト」という言葉は人事専門誌などでも使われるようになった)

 本書の日本語版への序文によれば、100歳以上の人をセンテナリアンと呼び、日本は現在6万人以上のセンテナリアンがいるとのことすが、国連の推計によれば、2050年には日本のセンテナリアンは100万人を突破、2007年に日本で生まれた子どもの半分は、107年以上生きることが予想されるとのことです(個人的にはそこまでの実感はないが...)。

「月刊 人事マネジメント」2018年12月号
「月刊 人事マネジメント」2018年12月号.JPG 人が長く生きるようになれば、職業生活に関する考え方も変わらざるをえず、人生が短かった時代は、「教育→仕事→引退」という3ステージの生き方で問題はなかったのが、寿命が延びれば2番目の仕事のステージが長くなり、引退年齢が70~80歳になって、長い期間働くようになる。すると、人々は生涯にもっと多くのステージを経験するようになるだろうとしています。

 著者らは、このような時代には、選択肢を狭めずに幅広い針路を検討する「エクスプローラー(探求者)」、自由と柔軟性を重んじて小さなビジネスを起こす「インディペンデント・プロデューサー(独立生産者)」、さまざまな仕事や活動に同時並行で携わる「ポートフォリオ・ワーカー」が登場すると予測しています。

 本書では、1945年生まれのジャック(3ステージの人生の世代)、1971年生まれのジミー(3ステージの人生が軋む世代)、1998年生まれのジェーン(3ステージの人生が壊れる世代)という3人のモデルを想定し、雇用の未来を見据えつつ、3人の人生と仕事のシナリオを描いていきます。

 また、その際に、人生の資産はマイホーム、貯蓄などの「有形資産」だけでなく、「無形資産」も重要な役割を果たすとして、その無形資産を1.生産性資産(知識、職業上の人脈、評判)、2.活力資産(健康、人生のバランス、自己再生の友人関係)、3.変身資産(多様な人的ネットワーク、自分についての知識)の3つに分類し、ジャック、ジミー、ジェーンの人生と仕事のシナリオを、これら有形・無形資産の増減と併せて描いています(これ、なかなか興味深い)。

 そして、その結果、あとの世代なればなるほど、長くなった仕事人生の間にいくつものステージが現れることが考えられるとし、それが、エクスプローラーであり、インディペンデント・プロデューサーであり、ポートフォリオ・ワーカーであって、それだけ、人々にとって人生の選択肢は多様化するであろうとしています。

 こうした、人生で多くの移行を経験し、多くのステージを生きる時代には、新しいスキルを身につけるための投資(生産性資産への投資)、新しいライフスタイルを築くための投資(活力資産への投資)、新しい役割に合わせて自分のアイデンティティを変えるための投資(変身資産への投資)を怠ってはならないということを説いており、さらに、新しいお金の考え方、新しい時間の使い方、未来の人間関係についても述べており、そうした意味では、自己啓発的な内容であるとも言えます。

 但し、それだけではなく終章では企業の課題についても論じています、企業には、①従業員の無形資産にも目を向けること、②従業員の人生で経験する移行を支援すること、③キャリアに関する制度や手続きを見直し、従来の3ステージの人生を前提にしたものからマルチステージを前提にしたものに改めること、④仕事と家庭の関係の変化を理解すること、⑤(難しいだろうが)年齢を基準にすることをやめること、⑥実験を容認・評価することを提案し、これらを実践しようとすれば、人事の一大改革が必要であるとしています。

ワーク・シフト   .jpg 著者の1人リンダ・グラットンの前著『ワーク・シフト─孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>』('12年/プレジデント社)は、2025年を想定ワーク・シフト LIFE SHIFT.JPGした働き方の未来をシナリオ風に予測した本でした。そこでは、「働き方」の〈シフト〉として、①ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ、②孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ、③大量消費から「情熱を傾けられる経験」へという3つのシフトを提唱していましたが、データの裏付け等があって説得力がありました。本書も同様にある種「未来学」であり、同じくシナリオ仕立てなので小説を読むように読めますが、働く人々の人生観や仕事観が今度どんどん多様化していくであろうことを体系的に説明しており、新たな視点を提供して説得力を持っているように思いました。読む世代によっても受け止め方は異なるかもしれません。今のところ "教養系"(実務系ではない)ということになるかと思いますが、人事パーソンにはお薦めです。

《読書MEMO》
●選択肢を狭めずに幅広い針路を検討する「エクスプローラー(探検者)」のステージを経験する人が出てくるだろう。自由と柔軟性を重んじて小さなビジネスを起こす「インディペンデント・プロデューサー(独立生産者)」のステージを生きる人もいるだろう。さまざまな仕事や活動に同時並行で携わる「ポートフォリオ・ワーカー」のステージを実践する人もいるかもしれない(5p)。
●人生で多くの移行を経験し、多くのステージを生きる時代には、投資を怠ってはならない。新しい役割に合わせて自分のアイデンティティを変えるための投資、新しいライフスタイルを築くための投資、新しいスキルを身につけるための投資が必要だ(27p)。
●エイジとステージが一致しなくなれば、異なる年齢層の人たちが同一のステージを生きるようになって、世代を越えた交友が多く生まれる(31p)。
●アイデンティティ、選択、リスクは、長い人生の生き方を考えるうえで中核的な要素になるだろう(37p)。
●無形の資産の3分類(127p)
1.生産性資産 2.活力資産 3.変身資産
●落とし穴にはまっていない人は、以下の三つのことを実践している。
まず、リスク分散のために、投資対象を分散させ、ファンドの運営会社もいくつかにわけている。次に、高齢になると損失を取り返す時間があまりないことを理解していて、引退が近づくとポートフォリオのリスクを減らしはじめる。そして、資金計画を立てるとき、資産の市場価値を最大化させることよりも、引退後に安定した収入を確保することを重んじる(276p)。
●平均寿命が延び、無形の資産への投資が多く求められるようになれば、(中楽)レクリエーション(=娯楽)ではなく、自分のリ・クリエーション(=再創造)に時間を使うようになるのだ(312p)。

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This page contains a single entry by wada published on 2018年10月 8日 00:56.

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